発表された関税政策
トランプ大統領の関税政策は、アメリカ国内の産業を保護し、貿易赤字を減少させることを第一の目的としています。それと同時に、アメリカ国内への不法移民の流入や蔓延する違法薬物が社会の基盤を脅かしており、流入阻止や対策を講じることも合わせて求めています。
具体的には既存の関税率に加えて、カナダとメキシコ産の全ての製品に対して25%の関税を、中国産には10%の関税を課すことが発表されました。エネルギー価格のさらなる高騰を避けるため、カナダからの原油の輸入については例外的に10%の関税とされています。カナダ・メキシコから送られる物品でUSMCA(後述)が適用され、現状では関税フリーであっても25%が課税され、中国産の物品は新たに10%の関税が上乗せされることとなります。トランプ大統領の就任前から関税政策に関する発言は見られていましたが、2月1日の大統領令の発表直後より各国に緊張をもたらしており、報復関税などの措置が取られるなど、新たな摩擦が生じているのは、多くの報道の通りです。
そもそも関税とは?
関税とは、国境を越えて輸入される商品に対して課される税金のことです。関税には主に以下の3つの目的があります。
財政収入:国家の財政収入を増やすために関税を課すこと。
保護主義:国内産業を保護するために、輸入品に関税を課して競争力を高めること。
貿易政策:貿易相手国との関係を調整するために関税を利用すること。
例えば、日本に輸入される品物では、国内農家の保護を目的として、コメや酪農品には関税が課されています。各々の国の事情によって、どの品物にどの料率で課税されるかは当然異なります。
関税の運用方法は通常、以下の手順で運用されます。
輸入申告:
輸入者は、輸入品が国境を通過する前に税関に申告書を提出します。(貨物の引取申告)
関税計算:
輸入者が輸入品の価値に基づいて関税を計算して申告し(納税申告)、税関当局がその内容が正しいか確認します。関税率は、商品ごとに異なります。また日本の場合は、関税のほか内国消費税についても併せて計算することになります。
関税支払い:
輸入者は関税(内国消費税も併せて)を支払い、その後商品を受け取ることができます。なお輸入後において、申告税額が正かったか否か税関当局による調査が行われる場合があります。
関税の決定権は、通常、その国の政府または特定の行政機関に属します。具体的には以下のような機関が関税の決定に関与します。
立法府(国会・議会):
多くの国では、関税率や関税政策の基本的な枠組みは法律で定められます。これには国会や議会が関与します。(日本の場合は、関税法、関税定率法、関税暫定措置法など)
政府(行政府):
具体的な関税率の設定や変更は、政府や大統領、首相などの行政府の権限で行われることが多いです。
税関当局:
関税の実際の運用や徴収は、税関当局が担当します。税関当局は、政府の指示に基づいて輸入者が申告した関税額を計算確認し、徴収します。申告税額が正しくなければ輸入者に対して是正を求めます。
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ホワイトハウス
アメリカでは、合衆国議会が関税法や貿易政策の基本的な枠組みを決定するほか、大統領が特定の条件下で関税を変更する権限を持っています。例えば、国家安全保障の理由や不公正な貿易慣行に対応するために関税を引き上げることができます。今回は議会を通さずに大統領権限で関税引き上げに関する発表が行われており、その詳細はホワイトハウスの公式ウェブサイトで確認することができます。(https://www.whitehouse.gov/news/)
USMCAとは?
アメリカ・メキシコ・カナダの3国間の間には、USMCA(United States-Mexico-Canada Agreement)と呼ばれる自由貿易協定が存在しています。この協定は、1994年に発効したNAFTA(North American Free Trade Agreement)を改定・更新したもので、北米地域の貿易と経済活動を促進することを目的として、一定の条件下では関税無しで貿易を行うことが可能となります。2020年7月1日に発効し、運用6年目の2026年7月1日までに本協定の運用状況の共同見直しが行われると定められています。本年秋頃までに見直しに向けた意見公募などが行われるとされています。
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カナダ⇔アメリカ⇔メキシコで輸送されるコンテナ
NAFTAは1994年に発効したものであり、その後の約25年間で経済環境や技術が大きく変化しました。デジタル経済の発展や新たな貿易課題に対応するため、協定の現代化が必要とされました。また政治的な要因も大きく、現行のUSMCAに繋がることになりました。
USMCAの主な特徴や改定点は以下の通りとなります。
自動車産業のルール:
自動車の原産地規則が強化され、75%の部品が北米産でなければならないと規定されています(NAFTAでは62.5%)。自動車製造に関わる労働者の最低賃金に関する規定が導入され、北米の労働条件の向上が図られています。
労働と環境基準:
労働者の権利と環境保護に関する規定が強化され、各国がこれらの基準を遵守することを求められています。
デジタル貿易:
音楽、ゲーム、ビデオ、電子書籍などのデジタル商品の関税が禁止され、インターネットを通じた取引が促進されています。
知的財産権:
知的財産権の保護が強化され、特に医薬品の特許保護期間が延長されています。
農産物市場の開放:
カナダの乳製品市場がアメリカ製品に対して開放され、農産物貿易の自由化が進められています。
関税政策の発表から現在までの動き
2月1日以降の大統領令の発令の発表以来、日々目まぐるしく状況が変化しており、現在までの動きを時系列でご紹介したいと思います。2月3日にはカナダ・メキシコの両国に対する発動は1か月後の3月に延期となり、カナダが発表していた対抗措置についても一時的に保留されています。他方、中国に関する言及はなく、予定通り適用へ進んでおります。
2月1日(土)
・トランプ大統領は、2月4日からカナダ・メキシコ産品に対しての25%の関税、中国産品に対しての10%の追加関税を課すとする大統領令を発令。
2月2日(日)
・カナダは155億ドル相当の米国製品に対して25%の報復関税を発表。30億ドル分は即日、残りは21日以内に発効。
・メキシコのシェインバウム大統領が安全保障と公衆衛生の問題に関して作業部会設置の提案を表明。
・(参考)日本・経済産業省とジェトロが共同で、「米国関税措置等に伴う日本企業相談窓口」設置
2月3日(月)
・アメリカ税関・国境警備局(CBP)が新規の関税分類番号を記したガイダンスを公表。
・カナダ・トルドー首相がトランプ大統領と電話会談、現状に加えて約1万人を追加で国境警備に当たらせるほか、フェンタニル対策担当官を任命させることで合意。カナダに対する追加関税の発動は最低30日間延期となる旨を発表。また2日に発表された対抗措置は一旦停止となる。
・メキシコのシェインバウム大統領とトランプ大統領が電話会談、不法移民や薬物の流入を阻止するため、国境地帯へ1万人のメキシコ兵を派兵することで合意し、4日から発動予定の追加 関税を1か月延期とすると発表。
2月4日(火)
・トランプ大統領がカナダ・メキシコに対する追加関税を3月4日まで延期する大統領令を発令。
・アメリカ東岸時間4日午前0時1分に、中国産品に対する追加関税10%を発動。
・中国・財政省が対抗措置として、2月10日からアメリカ原産の輸入品に対する追加関税を課徴を発表。石炭や液化天然ガスなど8品目に対して15%、原油や、農業用機械・トラクター、排気量の大きい自動車などに対しては10%など、具体的な対象品目のリストを公表する。
・中国・商務省が、タングステン、モリブデンなどの希少金属の関連品目の輸出管理を決定、即日実施すると発表。
2月5日(水)
・中国が今回の追加関税を不当として、アメリカをWTO(世界貿易機関)に提訴する。
2月10日(月)
・中国が4日に公表した対抗措置の各種物品に対する関税を発動する。
・アメリカが1日に発表していた中国に対するデミニミスルールの運用停止を留保する。
・アメリカが新たな関税政策として、鉄鋼製品・アルミニウムの関税を無関税枠・適用除外措置を撤回し、一律25%にすることを発表。但しオーストラリアについてはアメリカが貿易黒字となっているため、除外を検討。
現時点でカナダ・メキシコの両国に対する発動は3月4日までの約一か月間、延期となりました。同時にカナダが発表していた対抗措置についても一時的に保留されています。
他方、中国は当初の予定通り、米国東岸時間4日午前0時1分に既存の税率に10%の関税が加えられて引き上げられております。これに対して、中国側からも各種改正措置が発表され、10日に発動されました。
本関税の適用開始基準としては、「米国時間東岸時間2月1日午前0時1分以降、船積みされたもの」となります。中国からの輸入について、現時点で判明していることとしては、以下の通りです。
・関税は既存関税に上乗せして追加される
・10%追加関税分はHTS Code : 9903.01-20を利用しての申告する
・中国製品には香港産の物品も含まれます。
・特定の個人的な通信、寄付、旅行関連取引は対象外とする
国土安全保障省 米国税関・国境警備局 中華人民共和国産品に対する追加関税の実施 2025年2月1日発行の合成オピオイド供給網に関する大統領令に基づく措置
3カ国に対する現時点での状況は、以下の通りとなります。
本メルマガでは、弊社・米国法人(Nissin International Transport U.S.A Inc)と連携し、その動向を注視したいと思います。
本記事の執筆に際して、各政府関連機関・報道機関のホームページを参考にしています。