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船の運行を支える!船舶代理店業務

関係省庁や船員とのやりとりホスピタリティが求められる本船係

 

世界中を航行する貿易船。
各国の港を出入りするためには、我々が旅行するのと同様に出入国手続きが必要となりますがどのようになされているかご存じでしょうか?

 

船が安全に入出港できるようサポートする業務はたくさんありますが、日新では横浜港で定期コンテナ船、在来船をはじめとした船舶に対する代理店業務を行っています。
今回は、その「船舶代理店業務」についてご紹介いたします!

船舶代理店業務とは?

「船舶代理店業務」とは船会社の代理者として船舶が港に入出港する際に必要となる各種手続きや手配を行います。具体的には、①諸官庁への許可申請手続き、②離着岸の手配、③関係各所への連絡、④荷役終了後の「TIME SHEET」の作成・署名の取得等を担っています。

一口に諸官庁といっても7カ所存在し、関係者は以下の通り、約20カ所の組織と関わりながら業務を遂行しております。

当社では横浜港で本業務を手掛けており、邦船、外国船各社との契約に基づき、月に約70隻の運航を4名のスタッフが24時間体制で支援しております。

船舶代理店業務にあたるスタッフを、当社内では「本船係」と呼称していることから、愛着を込めて以下「本船係」として紹介してまいります。

 

【本船の入出港手続き】

作業依頼書の受領からスタート

船舶代理店業務は船会社の総代理店(基本的にはその船会社の日本法人になります)より作業依頼書を受領するところからスタートします。 本船係は依頼書に記載された本船に連絡し、船長と入港手続きの打合せを行います。具体的には、入港予定日時、これから入港しようとする港への寄港歴、港内ルール、着岸予定バースの詳細などを確認します。

横浜港が日本での最初の寄港地となる場合、本船係は海上保安庁に対して「船舶保安情報」、関東運輸局に対して船舶の「保障契約情報」を提出します。前者は本邦領海の安全確保の任務にあたる海保への情報提供、後者は万が一、本船から重油が流出してしまった場合海洋汚染への補償が必要となるため、本船が保険に加入しているか確認することを目的としたものです。

入港前日、関係各所へ連絡

Shore Pass(上陸証明書)

入港前日になると、本船係は本船が入港するターミナルと協議の上、着岸バースを取決め、本船の入港時刻、着岸場所、荷役の開始・終了予定時刻、出港予定時刻などの情報を貨物の荷揚げ・積み込み作業を指揮する港運部門および総代理店、前港・次港の代理店と共有します。

続いて税関、検疫所、入国管理局に対して「入港通報」を行い、入管より「Shore Pass」と呼ばれる船員の上陸許可証を取得します。

さらに、京浜港長に対してターミナル使用にかかる「係留施設使用届」、「危険物荷役許可申請」を行い、港湾局経由(*)で本船の入港停泊に必要となる水先案内人※1、タグボート※2、綱取り※3を手配します。

*港によって手配方法が異なりますので、上記はあくまで横浜港の手配方法になります。

【用語説明】

※1 水先案内人 地形的特徴など航海の難所において安全なルートを船長に案内する人のことです。英語では「パイロット」と呼び、湾内をガイドする「ベイパイロット」、港内をガイドする「ハーバーパイロット」がいます。
※2 タグボート 曳船(えいせん)、小型ながら馬力があり、小回りがきくため貨物船の入出港においては船舶を押したり、引いたり活躍します。
※3 綱取り 船の離着岸の際に、船と陸を結ぶロープを固定もしくは外す業務のことです。

 

入出港にかかる費用のまとめ、その他さまざまな対応

これらの手配が済んだところで、本船の入出港に際して発生する費用を取りまとめた「Voucher」を作成します。また、本船から荷揚げする貨物の目録「マニフェスト」が税関に対して提出されているかNACCS上で確認します。

NACCS画面

この他にも船長からの依頼に基づいて本船係は、船員への給与等の取次ぎ、生活水や食料の補給、本船の修理、病人の搬送など様々な対応を行います。

 

【本船の入出港手続き】 いよいよ本船入港!現場での作業

入港予定時刻に合わせ、着岸バースへ

本船係は本船の入港予定情報を確認し、着岸バースへ向かいます。

本船には本船係が手配した水先案内人が乗船し、タグボートに押されながらバースに着岸します。着岸時には本船からロープが渡され、綱取りによりバースの係船柱(係留ビット)に括りつけられ停泊します。

本船入港後、本船係は税関、入管、検疫所、京浜港長、港湾局に対して「入港届」、さらに税関に対してはトン税の納付や出港予定時刻記載した「出港届」の提出も合わせて行います。

手続きを終えると本船係は、本船に乗船し、船長と燃油残量や次の寄港地、荷役の開始・終了時刻、出港予定時刻などを打合せたのち、「Voucher」にサインをもらい下船します。本船係はバースから事務所に戻り次第、関係者に本船の到着報告をします。

訪船時の様子

荷揚げ、積み込み作業の実施

本船係からの案内に基づき、港運部門は航海士と打合せながら本船からの荷揚げ、本船への積み込み作業の指揮をとり、荷役作業を完了させます。(*港運部門について、今後特集してまいります)

荷役作業が完了すると、本船係は「TIME SHEET」と呼ばれる、本船の停泊時間を証明するための書類を作成します。 当書類は本船の入港時刻、荷役作業の準備が整ったことを通知した時刻、貨物の揚げ・積みが終了した時刻が記載され、船長から署名を得ます。

また、本船が入港してから出港するまでの間に事故が発生した場合は特記事項として明記します。

【用語説明】

TIME SHEET 船舶では全ての船舶を自前で保有しているわけではなく船主からレンタルしており、これを「用船」といいます。
船主と用船者において、一定の停泊期間で貨物の揚げ・積み作業を行う契約となっていますが、期間内に完了しない場合、用船者は船主に延滞費用を支払わなければなりません。その証拠となるため「TIME SHEET」は非常に重要な書類となります。

 

コロナ禍での変化(本船の防疫対策)

コロナ発生以降、船内にウイルスを持ち込むリスクを減らすため、本船係による乗船は取りやめとなり、船長が下船しバースで打合せを行うようになりました。

本船係は日々の検温や面会前に手指をアルコール消毒するなど感染リスクの低減に向けて、細心の注意を払っております。

船員は寄港地で船から降りて上陸する権利を持っておりますが、コロナ禍の入国制限により長期間に渡り、下船できないことが海運業界において大きな問題になっております。
入国制限の影響は、船員交代にも波及しており、乗船期間も長期化しているそうです。

 

【本船の入出港手続き】 出航を見届けて、ようやくの手仕舞い

本船係は出港1時間半前にバースに赴き、本船のコンディション、出港時刻、次港の確認など船長と最終打合せを行います。入管から船員に発行されていた上陸許可証もこのタイミングで回収します。 本船係が手配した綱取り渡しの手によりバースからロープが解かれ、本船に返されます。本船はタグボートに曳航されながらバースを離岸し、水先案内人の手引きにより出港します。

本船係は本船の出港を見届け、入管、京浜港長に「出港届」を提出し、関係者に「出港通知」を行います。後日、総代理店に船長にサインをもらった「Voucher」を送付し一連の作業は手仕舞いとなります。

 

各種手続だけでなく、人と人の繋がりも大切な要素

船舶代理店業務は本船の円滑な運航支援がミッションとなるため、正確かつ迅速な手続きが不可欠です。
所轄官庁への諸手続きを誤れば、本船の入出港が叶わなくなり、貨物の荷役作業にも支障をきたし、荷主様へご迷惑をおかけしてしまいます。また、運航スケジュールの遅れは船舶の運航コスト増に繋がるため、これらの意識をもって業務にあたっています。

外国人船員への対応については、代理店担当者が日本の港に入港して初めて接する日本人となるため、常に良い印象を持って頂けるように心がけております。

訪船に際しては清潔な身なり、友好的かつ落ち着いた振る舞い、良好な関係構築のためには語学力も必要となります。

本船からは停泊中にも様々な手配要請があります。ゴミの廃棄やクリーニング手配、家族への手紙の投函、散髪、買い物場所を教えて欲しい等々、巨大な本船相手の業務も、人と人の繋がりも大切な要素。 ホスピタリティをもった対応も船舶代理店担当者に欠かせない資質の一つです。

本船の入出港は昼夜問わず行われること、そして様々なかたちで発生するトラブルシューティングを行うため、早朝、夜間対応が常で、土日祝祭日、年末年始も交代制で勤務となり、非番時でも携帯電話で常に連絡を取れる体制を取り、必要があれば港に駆けつけるなど、船舶代理店業務ゆえの苦労や大変さがあります。

そんな苦労があっても、出港時に岸壁を離れていく本船のブリッジから船長が手を振ってくれる光景は、無事に業務を終えた安堵と達成感、そして船舶代理店業務の果たす役割と職務への誇りを感じる一時です。