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暫定合意!アメリカ東海岸ストライキについて〜現地レポートを交えて〜

多くの交渉を重ねながらもなかなか合意に至らず、9月30日の協定期限を迎え、翌10月1日から始まった、47年ぶりとなるアメリカ東海岸での大規模ストライキ。現地時間10月3日には、暫定合意として2025年1月15日まで協定の適用期間が延長される旨の発表があり、一旦は収束、混乱を回避した形となりました。連日、様々な情報が報道されていますが、どのような流れだったのか、改めて振り返りたいと思います。

47年ぶりの東海岸ストライキ:ILAとUSMXの交渉決裂の背景

アメリカ西海岸ではストライキが度々発生しているのは記憶に新しいところですが、東海岸では1977年を最後に、47年間大規模なストライキは発生していませんでした。2024年9月30日に現協定が失効するのを踏まえ、2023年2月から東海岸およびメキシコ湾岸の港湾地区に影響を及ぼす、組合員数約45,000人を擁する労働組合ILA(国際港湾労働者協会)と使用者であるUSMX(米国海運同盟)の間で交渉がスタートしました。

交渉の争点となったのは主に2点、労働者の報酬の向上とコンテナヤード内での自動化推進による雇用機会喪失に対する懸念です。

ILAは、コロナ禍で多くの船会社が記録的な高水準の利益を計上する一方で、労働者への報酬が十分に支払われていないと主張しています。過去30年間で賃金が上がっていないため、強硬な姿勢で交渉に臨むことを表明しました。また、早い段階から現行協約の満了日である2024年9月30日を超えての延長はしない旨も報道されていました。

コンテナヤード内の自動化推進による雇用機会喪失に対する懸念については、具体的な事例が発生したことが争点として取り上げられました。

南部アラバマ州にあるモービルは、フランスの植民地をルーツに持つ古い港湾都市です。市内中心部を流れるモービル川河口に位置するアラバマ州唯一の海港・モービル港は、木産物や石炭の取扱港として発展してきました。その港内、Choctaw Point付近にある船社:マースク傘下のターミナル会社・APM Terminals Mobileにてゲートシステムの自動化が行われましたが、ILA側は組合員の労働力を用いずに自動化が行われたことが現行の協約に違反するとして態度を硬化させました。

争点の一つとなったアラバマ州モービル港のAPM Terminals Mobile

本来であれば2024年6月から基本協約交渉がスタートする予定でしたが、これらの争点にて交渉するも平行線を辿り、期限の9月30日を迎えることとなりました。

 

ストライキへのカウントダウン

このように難航が予想されていた交渉ですが、2024年9月4日から5日にかけて行われた労働協約締結に向けた協議が決裂したことが、ターニングポイントの一つとなりました。以後、協議は平行線を辿り、9月20日には9月末に労使協定が切れ、ストライキを開始する旨の声明がILAから出されました。同時に、バイデン大統領からは、この問題に介入しない旨のコメントが発表され、ストライキ突入がより現実のものとなりました。協約期限の9月30日当日には、USMXはスト回避を目的として、50%の賃上げを提示したものの、ILA側は同意せず、ストライキ突入が決定的なものとなりました。

 

バイデン政権の反応と暫定合意への道のり

現行の協約期限の9月30日までに合意には至らず、翌10月1日から大規模なストライキに突入したのは、報道されている通りです。ILAの港湾労働者が働くメイン州からテキサス州に至るまで、全ての港湾が閉鎖されました。

 閉鎖された主要港湾:
BOSTON
NEW YORK/NEW JERSEY
PHILADELPHIA
BALTIMORE
NORFOLK
WILMINGTON
CHARLESTON
SAVANNAH
JACKSONVILLE
MIAMI
TAMPA
MOBILE
NEW ORLEANS
HOUSTON

ILAのロゴを掲げたトラクターヘッドが並ぶストライキ現場

バイデン政権は当初、この問題に介入しないと表明していましたが、その影響の大きさから10月2日にUSMX側に提示額の引き上げと合意取り付けを迫り、バイデン大統領のX(旧Twitter)の公式アカウントでは新たなコメントを発表しました。

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Foreign ocean carriers have made record profits since the pandemic, when Longshoremen put themselves at risk to keep ports open. It’s time those ocean carriers offered a strong and fair contract that reflects ILA workers’ contribution to our economy and to their record profits.

I’ve also directed my team to monitor for any price gouging activity that benefits foreign ocean carriers. No company should exploit this for profit.


外国の海運会社はパンデミック以来、記録的な利益を上げてきました。その間、港湾労働者は自身のリスクを冒して港を開け続けました。今こそ、これらの海運会社が、ILA労働者の経済への貢献および記録的な利益を反映した強く公平な契約を提供する時です。

また、外国の海運会社に利益をもたらす価格つり上げ行為がないか、私のチームに監視するよう指示しました。どの企業も、この状況を利用して利益を得るべきではありません。

(X/旧Twitter President Bidenより引用)

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コンテナヤード各所には、ILAのテントが建てられた

しかしILAは強硬な姿勢を崩さず、ハロルド・J・ダゲット(Harold J. Daggett)会長は、CNBC放送のインタビューに対し、「61.5%前後の賃上げを求めている」と回答しています。また「次の6年間の協約期間中、1時間当たり5ドルの賃上げを求めていく」といったコメントも散見されました。交渉が暗礁に乗り上げ、長期化するのか10月3日の暫定合意を受けて、2025年1月15日までの現行協定の延長が決定され、交渉が再開されることになりました。

ニューヨーク・ニュージャージー港のストライキ現場から                ~10月3日の様子をレポート~

日新では、米国内の各所に支店・事務所を設け、お客様からのリクエストに迅速に対応できる体制を整えております。10月3日の暫定合意の直前に、ニューヨーク・ニュージャージ港を巡り、ストライキの様子をニューヨーク支店の弊社駐在員が撮影しましたので、ご紹介いたします。

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10月3日に訪問したニューヨーク・ニュージャージー港のBayonneおよびMaherターミナルのストライキ当日の様子をお届けいたします。

まず、Bayonneターミナルについてご紹介します。このターミナルは主にシンガポールや釜山を経由して、日本やアジア各地を結ぶEC2、EC4、EC5といったサービスに利用されています。港湾全体の約10%の取扱量を占めています。一方、Maherターミナルは欧州航路を中心に運営されており、ニューヨーク・ニュージャージー港全体の約80%近い取扱量を誇ります。そのため、Maherターミナルには圧倒的に多くのコンテナが積み上げられていました。

多くのコンテナが積み上げられ、作業がストップしたMaherターミナル。手前にはスト参加者の姿も。


訪問当日、港内で確認できたコンテナ船はMSCの1隻のみでした。広く報道されている通り、ターミナルは全てクローズしており、ストライキに参加しているドレー業者以外はほとんど見受けられず、道路は閑散としていました。

閉鎖されたBayonneターミナル・ゲート付近の様子


また、この日はRosh Hashanah(ユダヤの新年祭)で学校が休みだったこともあり、多くの子供たちがストライキに参加している光景も見られました。約半世紀ぶりのストライキということもあって、現地はまるでお祭りのような雰囲気に包まれていました。

当日が休校日だったこともあり、子供を連れて参加する姿も見受けられた 

ストライキの余波:船会社の対応と市場への影響

港湾閉鎖を受けて、各船会社も対応に追われました。現地側の一例としてゲートシステムの自動化が争点の一つとなったアラバマ州モービル港のAPMターミナルでは、以下の対応が発表されておりました(APMターミナル社HPより一部を抜粋)。

  1. ストライキ期間中の滞留料、フリータイムは凍結。
  2. 9月30日までにリーファーコンテナを引き取らないと保守ができなくなるため、積載された内部の貨物については損傷があったとしてもその責任を負わない。

各運行船社は、様々な名称でのサーチャージの導入を決定、公表しています。金額や適用開始日などにバラつきがございますが、10月3日の暫定合意を受けて、今後どのような動きとなるのか、現状では不透明な状況です。

 

船社からの不可抗力宣言(Force Majeure)に関する案内/出典:ONE HP 

また、一部船社からは、今回のストライキに伴い、Force Majeure(不可抗力)を宣言する動きも見られました。既に書面にて公表されており、B/L裏面の約款に基づき、B/L上に記載された仕向け地(Place of Delivery)と異なる仕向け地への変更、また輸送貨物の減失、毀損などから免責されることを意味します。ご参考までに一部船会社のレターを添付しますので、ご参照ください。

アメリカ西海岸を管轄する国際港湾倉庫労働者組合(ILWU)は、ILAとの連携を表明しており、東海岸から西海岸への仕向け地変更があった場合でも荷役を拒否することが予想されていました。そのため、ストライキ終了まで沖待ちをする、もしくは発地側への回送という選択肢も考えられていました。

 

数日間のストライキの結果、一旦は現協約の延長と交渉が再開されることになった東海岸の労使交渉ですが、今後も11月の大統領選を挟んで最終合意まで目が離せない状況が続きそうです。今後6年間に渡るという条件付きながら、61.5%の賃金引上げについては妥結したものの、今後はもう一つの争点であるヤード内の自動化やその他の部分については交渉が継続されると、ILAのホームページ上で発表されています。今回、多くの企業が事前準備として在庫を厚く持つなどの事前対応を迫られました。またストライキを受けてアメリカ東海岸、メキシコ湾岸に待機していた本船スケジュールも遅延しており、解消までは今しばらく時間を要することから、これからの繁忙期にも影響を与える可能性がございます。米国への輸出入のみならず、世界経済や海運業界に大きな影響を及ぼす事案であり、残された事案の最終合意までは、まだ注視が必要です。

 

(10月30日追記)

国際港湾労働者協会(ILA)と米国海事同盟(USMX)は現地時間10月25日、2024年11月にマスター契約協議を再開することを発表しました。
    (出典:USMXホームページ)
これにより未解決の諸問題についても、交渉が進むことが予想されます。

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