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水が足りない!?パナマ運河の渇水状況

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2024.04.03

昨今話題のパナマ運河の渇水問題。通行が制限されたことにより多くの産業分野に影響がおよび報道される機会も多くなりました。物流に関わる方には見過ごせない話題ですが、地理的に遠いこともあってなかなかピンと来ない…という方も多いのではないでしょうか。

今回はそんなパナマ運河とその渇水問題についてご紹介します。

そもそもパナマ運河って!?

パナマ運河とは、
中米・パナマにある閘門(こうもん)式運河。太平洋と大西洋をつなぐ目的で建設され、全長は82㎞。
途中には標高差があるため3つの閘門があり、各々で水位を調整しながら船が進むことができます。

 全長82㎞とわずかな距離ではありますが、通航制限による迂回は数1,000㎞におよびスケジュール遅延のみならず一時的なサーチャージの金額上昇等、利用者に与える影響も多く、改めて注目を集める問題となりました。

当社では海上輸送を管轄するNVOCCチームが運行船社と密接な連絡を取りつつ、最新の運行状況や情報の入手を行っております。

パナマ運河の歴史

船が山を越えていく…とも評されるパナマ運河ですが、かんたんにその歴史を説明します。
古くはコロンブスが探検した時代、1513年にスペイン人の探検家バルボア(Vasco Núñez de Balboa)が現地の人からこの先に大きな海があるという話を聞いたのをきっかけに太平洋に到達しパナマ地峡の存在が知られることになりました。

その後1849年、アメリカ、カルフォルニア州サクラメント近郊で金が発見されたことによりゴールドラッシュが起き、多くの人が幌馬車や海路でカルフォルニアを目指しました。ニューヨークから最寄りのサンフランシスコまで、南米大陸の南端をまわると約21,000㎞。これに対してパナマ地峡を越えるルートを採ると約8,500㎞。約60%を短縮するパナマ地峡は注目のルートとされ、1855年にはパナマ地峡を横断する全長76㎞のパナマ鉄道が開通し多くの人や荷物を運びましたが、1869年にアメリカ・大陸横断鉄道が開通すると往来はそちらへ移行し、パナマ地峡ルートは廃れていきました。

それでも太平洋と大西洋を結ぶ最短ルートとしての評価は変わらず、1800年代後半にスエズ運河を拓いたフェルナン・ド・レセップスが運河開発に着手するものの、熱帯特有の黄熱病のまん延や放漫経営で開発は中止となりました。
しかしその重要度に目をつけたアメリカがパナマ運河地域として開発に着手し1914年に運河を開通。1999年12月31日の正午まではアメリカが、現在はパナマ運河庁が管理し通行料を徴収しています。

アジアから米国東海岸向けの貨物量が増加してくると、1996年にパナマ運河庁は拡張工事に着手します。途中、幅がせまく船舶のすれ違いがむずかしかったクレブラカットの拡幅工事をメインに閘門設備の改善といった内容でしたが、予想以上に通航する貨物量の伸びが早く、20年程度で容量オーバーとなる見込みが立てられた結果、既存施設の改良工事だけでなく、新たな閘門・航路を開設することが決定されました。2007年に建設工事が開始され、2016年にはネオ・パナマックスとして運用が開始されました。この工事により、更に大きな船舶の航行が可能となりました。

現在のパナマ運河

パナマ運河は国際運河と指定され、軍民・船籍を問わず通行可能とされています。その通行料は長らく貨物を積載できる容積(純トン数)をベースにしていましたが、2005年よりコンテナ船はTEU(20fコンテナ当たり)をベースにすることに改定されました。

世界の貿易量の約3%が通行するといわれ、東アジアからアメリカ向けの本船の約半数近くが通過します。東行きは産業製品や機械といった品物、西行きは農産品や鉱石、LNGといった品物が目立ちます。年間の通行量は約12,000~13,000隻程度で、コンテナ船が約40%、乾燥原料船が約20%、自動車運搬船が約15%と続きます。

パナマ運河の構造

全長82㎞の運河には3つの閘門(こうもん)が存在し、各々の閘門を閉じて水位を調整することで次の区域への航行を可能にしています。海面なんてどこも一緒、普通に繋げればそれでよいのでは?とも思えますが、太平洋の水位は大西洋に比べて24㎝高く、潮位変動も太平洋側と大西洋側で変動幅にも差があるため、もし両岸を直接繋いでしまうと急流となってしまい、とても船が航行できるような状態にはならないとされています。

運河を航行するためには、閘門で仕切られた水位を調整する区域、閘室(こうしつ)に入らなくてはなりません。航行する船のサイズはこの閘室に見合ったサイズとされています。このサイズを「パナマックス」と呼びパナマ運河を航行できるサイズとして、規定されています。2016年の拡張工事の完成に伴い、第三閘門を航行するサイズとして「ネオ・パナマックス」という新たに大きな数値が規定されました。

パナマ運河の最高地点は途中のガトゥン湖の標高26m。
1つの閘門で8~9m程度の水位調整を行いながら、26mに合わせて行きます。1隻の大型船が航行すると、約20万トンの水が放出されています。

その水の供給元となっているのがガトゥン湖で、もともとはこの地を流れていたチャグレス川をせき止めた人工湖です。パナマ運河の航路・閘門への水の供給はもとより地元の水道の水源としても用いられる重要な湖です。

ガトゥン湖が干上がる!?

パナマの生命線ともいえる存在のガトゥン湖ですが、例年11~4月頃までが乾季とされ水位が減少することは過去にもありましたが、雨季に入る5月以降は水位を回復していました。
しかしながら、2023年に発生したエルニーニョの影響で異常な乾燥状態により貿易風の影響が弱まった結果、運河の太平洋側の起点であるパナマ市で降雨を観測していても雨雲が湖周辺に到達することができず、結果として通常よりも1.8m程度水位が減少し、通常通りの水利用ができる状態ではないところまで追い込まれてしまったのです。

パナマックス 通行隻数の遷移
2023年
~7/29
7/30-10/31 11/1-2 11/3-6 11/7-11/30 2024年
12/1-1/15
1/16-3/24 3/25-
36隻/日 32隻/日 31隻/日 25隻/日 24隻/日 22隻/日 24隻/日 27隻/日

上記表の通り、渇水前には1日当たりのパナマックスの通航枠は36隻でしたが、7月末から通航制限が加えられた結果、12月には22隻まで減りました。
計画では通行数を減らされる予定でしたが、幸いにも2023年11月にまとまった降雨があり水位が回復したため、1月16日以降は若干の回復となっています。それでも渇水前の3分の2程度の通航量であり根本的な解決には程遠い状況で、今後の降水量により大きく左右されるといった不安定な状況は否めません。2024年1月16日以降、パナマックスについては24隻の通航枠で推移してきましたが、3月25日以降は通航枠が若干引き上げとなる旨がパナマ運河庁より発表されました。

ネオ・パナマックスも同様の推移を辿り、2023年11月までは9隻/日だったものが順次減少し、12月には6隻/日まで減ったものの、2024年1月16日以降は7隻/日と若干の回復を見せていますが、こちらは3月25日以降も現行の7隻/日を維持する旨の発表がありました。

パナマ運河庁も二次貯水池のアラフレア湖/Lake Alajuelaからの放水を行う等の対策を取り、水位を確保する試みを行っています。そもそも運河拡幅工事のタイミングと同時に、淡水供給の仕組みを作るべきであったという指摘もあり、別の川(インディオ川)をせき止めガトゥン湖に繋がるトンネルを建設し、淡水の安定供給を行う計画も発表されましたが、コスト面や地元の反対運動もあり進んでいません。根本的な解決を図るまでにはまだ長期間を要し、即効性のある施策が取れていないのが現状です。

また運河と並行して走るパナマ鉄道にも久々にスポットライトが当たりました。長い間荒廃していた同鉄道は、1998年にアメリカのKCS(カンザスシティ・サザン鉄道)とMi-Jack Product社(インターモーダル運営会社)との間で、50年間のリース契約がまとまり、復活工事後の2001年に再開通しました。アメリカ本土からAmtrakやKCSで活躍した機関車、各社で運用していた貨車が持ち込まれ、ダブルスタックトレインのサービスがスタートしました。今回の混乱では実際に一部船社が利用するというアナウンスがありましたが、その輸送力は大型化の進んだコンテナ船を代替するまでには至らず、ごく一部の利用に留まったようです。

水位の回復により、運河の通航枠の方法の改定も行われ、従来はパナマ運河庁のカスタマーランキング上位の船会社が優遇されて割り当てられていたシステムが、公平を期すために1日1船社で1本船通航できるという形となりました。

この改定により一部の船会社に偏っていた予約枠本数がどの船会社も1日1本は通航が可能となりました。この改定により、しばらく喜望峰まわりを余儀なくされていたアジア発北米東岸へのサービスが、パナマ経由に復するといった動きにも繋がりました。今後の展開は5月以降の雨季次第で変わってくるという状況で、当面の間は注視する必要が続く見込みです。

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