「商法及び国際海上物品運送法の一部を改正する法律」とは?
長く見直しが行われてこなかった商法・国際海上物品運送法を、その文体のみならず、制定後に新たに生まれた航空輸送・複合輸送への対応や、運送責任の消滅期間の改定など、社会や経済状況の変化に応じ、現在行われている輸送の実態へ対応・調整を行うために公布された法律となります。当時の法務省発行の広報用レジュメを見てみると、改正のポイントとして、以下が挙げられています。

改正当時に法務省から配布されたレジュメ
・運送全般についての共通ルールの新設
陸上運送・海上運送・航空運送・複合運送に共通のルール、複合運送における損害賠償請求に関する規定が新設されました。
・運送事業者の責任の消滅期間に関する改正
現代の物流量増加に伴い、運送事業者の責任期間が改正され、荷物引き渡し後の責任は一律1年に短縮されました。
・旅客運送事業者の免責特約の効力に関する規定の新設
旅客運送における事故時の損害賠償責任を制限する特約を原則無効とし、旅客の生命・身体の保護を強化しました。ただし、運送の遅延や災害時の救援活動など、特定の例外が設けられています。
そしてもう一点、危険品の取扱に関する規定も新たに設けられました。
危険品に関する通知義務の改正について
科学技術の発展により、多種多様な化学品が生産され、陸上・海上・航空といった各輸送モードで国内のみならず、世界各地への輸送が盛んに行われているのは、ご承知の通りです。しかし改正前の商法では荷送人の通知義務はありませんでしたので、輸送途上での適切な危険品の取扱や安全確保を目的として、新たに荷送人が必要となる情報を運送事業者に対して通知しなければならないことが規定されました。
改正後の商法・国際海上物品運送法の条文は以下となります。
*************************************************************************************************
改正商法第572 条
荷送人は運送品が引火性、爆発性その他の危険性を有するものであるときは、その引渡しの前に運送人に対し、その旨及び当該運送品の品名、性質その他の当該運送品の安全な運送に必要な情報を通知しなければならない。
(商法572 条は国際海上物品運送法15 条に準用されています )
*************************************************************************************************
危険品の対象範囲は、「引火性、爆発性その他の危険性を有するもの」と規定されています。
従って、引火性、爆発性を有するものだけでなく、人、生物、船体および航空機などの輸送器具や、他の貨物等に影響を及ぼす可能性のあるものが含まれると解釈出来ます。
弊社NVOCCにブッキングする場合、荷送人(=お客様)は、運送品を運送人(=日新)に引き渡す前に、安全な運送に必要な情報を通知しなければならない、という義務が生じます。もしその通知を行わなかった場合には、荷送人は法律上の賠償責任を負うこととなります。「知らなかった!」では済まない、大変重要な責任を持つことが明文化されました。
輸送前に知っておくべき:安全データシート(SDS)の詳細と準備

国際間の危険品輸送ではSDSが必須となる
国際間で危険品を海上・航空輸送する際には、いくつかの重要な書類が必要となります。その中でも、SDS(安全データシート)という名称は耳にされたことがあるかもしれません。これは以前、MSDS(製品安全データシート)と呼ばれていたもので、化学物質や製品の特性や取扱い方法を詳細に記した、いわばその物質の「プロフィール」とも言える重要な書類です。
通常、SDSは化学物質や製品を生産するメーカーが提供し、ホームページなどで公開している場合もあります。SDSの内容は国際規格ISO 11014に基づいて標準化されており、その物質や原材料の組成から取扱い方法までが順番に記載されています。
国際間の輸送で特に重要なのは、14. 輸送上の注意という項目です。ここには、国連勧告で規定されたクラスやUNナンバーをはじめとする各種情報が記載されています。この情報と、別項に記載されている引火点などの情報を基に、運行船社や航空会社が積載判断を行います。したがって、輸送を計画する際には、まず準備すべき必須の書類の一つと言えます。
商流によっては、直接生産メーカーから購入せずに商社や問屋などを通じて購入する場合もありますが、その場合でも購入元を通じて事前にSDSを入手することが必要です。

申告に基づいて、コンテナ側面に掲示される危険品ラベル (左)等級3 引火性液体類 (中)等級9 有害性物質 (右)海洋汚染マーク
また、運行船社や航空会社によっては、外地にある事務所で取扱いの判断を行ったり、到着地での取扱いの確認が必要になることがあるため、日本語だけでなく、英語や中国語のSDSの提出を求められることがあります。事前にこれらの言語でのSDSを準備しておくと、積載可否の判断が比較的スムーズに行うことができます。
見過ごされがちな危険品:日用品の輸送リスク
以上は、日常的に危険品を取り扱われている方であれば、ごく当たり前の話ですが、実際に起こったトラブルとして、一例をご紹介いたします。昨今、ECビジネスの発展により、従来以上に多種多様な品物が輸送される機会が増加しました。普段スーパーマーケットやドラックストアなどで簡単に入手することが出来るため、危険品という認識が持たれないまま、船積みしてしまったというトラブルが増加しています。実際に弊社が聞き取りした船社では、以下の品物が危険品に分類されているにも関わらず、無申告で積載されてしまった事例があったそうです。
CLASS 2-1 / UN1950 パイプ洗浄剤
CLASS 3 / UN1993 車載用消臭剤
CLASS 8 / UN1760、1791 洗濯槽クリーナー 浴室用カビ除去剤 パイプ洗浄剤 トイレクリーナー 洋服用漂白剤 台所用クリーナー
この他、香水・マニキュア・マウスウォッシュ・アルコールベースの消毒剤などは可燃性液体に分類される可能性があり、またヘアスプレー、防虫剤などは高圧ガス、リチウムイオン電池や各種バッテリー類は有害性物質として危険品該当となるケースがございます。個々の品物の組成・構成などにより、その判断は分かれますので、事前に確認が必要となります。
日常で使われているから…と確認を怠り積載してしまうと、予想外の罰則を受けてしまう可能性もございます。
危険品輸送の新たなルールとペナルティー:船社の対応
日本国内の法制度の改正より危険品積載の通知が荷主の義務となりましたが、時を同じくして危険物起因のコンテナ船に於ける火災・爆発事故が世界各地で発生していることは、報道でもよく見かけることが多いと思います。こうしたトラブルを未然に防ぐため、各船会社の運行管理規定は年々厳しくなってきており、船社からは危険品積載時の申告漏れへの注意喚起と共に、ペナルティー制度を導入する旨のアナウンスがございました。一例として、弊社が代理店業務を担うSINOTRANSからの注意喚起をご紹介いたします。
*************************************************************************************************
申告漏れ危険品貨物に関する重要な通知 2024/07/29
お客様各位
平素は弊社サービスを御利用いただき、厚く御礼申し上げます。
さて、昨今、当社運行船で普通品として船積みした輸出貨物が、荷受人様より危険物として申告が必要であると連絡を受け、本船の目的港到着間際に申告漏れ危険品貨物の積載が発覚いたしました。
また、他社運行船では日用品貨物等の普通品が、中国側海事局により国際海上危険物規程(IMDGコード)該当の危険品であると指摘され、罰金を伴う行政処分を受ける事案も発生しております。危険品貨物の申告漏れは船舶、貨物、乗組員の安全を脅かす深刻な損害をもたらし、最悪の事態として本船入港が拒否される事態を招く可能性もございます。
弊船社SINOTRANS CONTAINER LINES CO.,LTD.は、上記のような危険品貨物の未申告積載が発生した場合、通常の商業秩序を保ち、安全管理を強化するため、法的責任を追及し、コンテナあたり30,000ドルの違約金を申し受けます。未申告の責任がどちらにあるか関らず、まずは荷主様に対して違約金の請求が行われますことをご了承ください。
荷主様の危険品積載申請も内容は、大変重要な情報であり、正しくご提供いただく必要がございます。輸出貨物のCommodityに該当する貨物が含まれていないか、危険品の申告漏れを避けるため、十分なご確認の上船積み手続きを行っていただきますようにお願い申し上げます。
弊船社SINOTRANS CONTAINER LINES CO.,LTD.は、今後もお客様と共に安全な輸送環境を構築出来ることを心から願っております。何卒ご理解とご協力を賜りますよう重ねてお願い申し上げます。
(出典:SINOTRANS JAPAN 社 HP https://www.sinotrans.co.jp/news/2024-03-27-01.jsp)
*************************************************************************************************
他船社に於いても同様の注意喚起がなされており、未申告積載が発覚した際には、50,000ドルの違約金を請求する旨の通知を行っている船社もございます。
危険品の取扱について、日本国内の商法・国際海上物品運送法の改正により、荷送人が運送人に対して事前に通知を行う義務が生じました。同時に、国際輸送の分野でも事前申告の重要性がますます問われる状況となっています。もはや「知らなかった」では済まされない時代です。積載する品物の性質を正しく把握し、必要に応じて各種情報や資料を事前に準備することが必須となってきています。