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化粧品輸出の基礎知識 規制対応と輸送の注意事項

毎日使っている化粧品、身近なものだからこそ気になりますよね。では、自国の化粧品を海外に輸出している国々についてご存じでしょうか?

2022年の金額ベースの実績では、上位5か国は以下の通りとなります。
1位 フランス 2位 韓国 3位 アメリカ 4位 日本 5位 ドイツ
(出典:https://oec.world/en/profile/hs/beauty-products)

普段使われている化粧品は、この5か国のいずれかに含まれていましたでしょうか?フランスの有名ブランドや最近人気の韓国コスメなど、強力な競争相手が上位に名を連ねていますが、日本の化粧品も海外で非常に高い評価を受けているのは、ご存じの通りです。今回は化粧品の輸出についてご紹介したいと思います。

日本の化粧品が海外で愛される理由とは?

実際に、化粧品の輸出額を比べてみると2023年度には輸入額が約4,600億円に対して輸出額は約5,900億円となっています。

日本からの輸出先としては、中国、香港、シンガポール、台湾、韓国が多く、2020年以降は輸出額の半数近くが中国向けの輸出となっています。

 

日本の化粧品が海外で人気を得ている理由として、以下の要因が考えられます。
高品質/自然素材の使用/革新的な製品開発/文化的魅力/安心・安全基準の高さ

このような要因から、日本の化粧品が海外での支持される結果に繋がっています。それでは海外でも大人気の化粧品を輸出する際にはどのような対応が必要なのか、ご紹介させて頂きます。

日本の化粧品をアメリカへ:高品質を保つ輸送プロセス

日本の化粧品が海外で人気を博している中、実際の輸送方法についても気になるところです。化粧品の輸送には航空と海上、双方の輸送方法が用いられますが、ここでは高級スキンケア製品を日本からアメリカへ航空便で輸送した具体的な事例を紹介します。

・製品の梱包とラベル貼り
まず製品は、輸送中の衝撃や温度変化から守るために丁寧に梱包されます。クッション材を使用し、耐衝撃性のある箱に詰められます。さらに、製品ごとに外地での販売で必要となる適切なラベルが貼られたり、カートン外装にはケースマークやFragile(壊れ物)やThis Side Up(上向き)といったラベルも輸送事故リスク削減の観点から貼られています。

・出荷書類の作成
次に出荷に必要な書類が作成されます。これにはインボイス、パッキングリストといった貿易では必須となる書類は勿論、化粧品の種類や出荷先から求められる場合には、原産地証明書やSDS(安全データシート)といった関係各所へ依頼して取得する書類も含まれます。

・航空便の手配と積み込み
出荷書類が整ったら、航空便の手配を行います。最適なフライトとスケジュールを選定し、適切な温度帯などの輸送条件を加味してスペースを確保します。弊社・成田ロジスティクスセンターでは、冷蔵・定温といった温度帯での一時保管も可能で、搬出を待つ間でも適切な取扱のご提供が可能です。

・通関手続き
日本側の通関手続きが行われます。ご準備頂いた各種出荷書類を弊社通関担当者が確認の上、税関に提出します。その際に不明な点があれば質問させて頂くこともあります。

・到着後の検査と通関
現地の税関で輸入通関手続が行われます。必要な書類と共に、製品がアメリカの規制に適合しているかどうかの確認が行われます。このプロセスでは、アメリカのFDA(食品医薬品局)の手続が税関申告とは別に存在し、税関からは輸入許可が下りているものの、FDAからの承認が下りないといった状況も起こる可能性がございます。

・最終目的地への配送
通関手続きが完了した後、製品は最終目的地へ配送されます。弊社現地法人が品物を受け取り、指定された倉庫や店舗まで安全に届けます。ここでも適切な温度帯での管理や保管方法を保ち、求められる品質を保持したままの配送が行われます。

アメリカへのフライト自体は10~15時間前後ではありますが、これらの一連のプロセスに時間を要するため、最低でも集荷から配送まで3~4日程度は掛かります。通関手続やフライトスケジュールのタイミング、現地の配送状況によって左右されることが多い部分です。

このように、化粧品の輸送には細やかな手続きと注意が必要です。特に高級スキンケア製品のようなデリケートな商品については、輸送中の品質保持が重要となります。輸送方法や手続きを理解することで、よりスムーズな輸出が可能となります。

輸出のプロセス:準備から規制対応まで

化粧品の輸出は、単に製品を梱包して発送するだけでは完了しません。輸送上の注意点や通関手続きに加え、輸送過程や目的国の規制を遵守するための詳細な準備が必要です。

・SDSの準備
安全データシート(Safety Data Sheet/SDS)は化学物質に含まれる物質名や危険有害性情報、取扱い上の注意、環境への影響などに関する詳細な情報が記載された文書です。SDSの内容は、輸送手配や通関手続上で重要な書類の一つとなります。次項で説明いたしますが、危険品に該当する場合は、項目14に記載されている情報提出が必須となります。

・成分表の準備
成分表には、製品に含まれる全ての成分とその配合割合が記載されています。特に輸出先国の規制に従い、特定の成分が含まれていないことを証明するために重要です。例えば、特定のアレルゲン物質が含まれていないことなど、説明に必要となる場合があります。但しSDSに必要な成分組成の情報が記載されているケースもあり、その場合は成分表の提出まで求められないケースもあります。

・輸送上の注意点
化粧品は温度や湿度の変化に敏感な製品が多いため、適切な温度管理が必要です。特に高級スキンケア製品や香水などは、指定された温度帯での輸送や保管に必要となる保冷剤や梱包、関係する倉庫や航空会社、現地側へは事前連絡を行うことも必要となります。

・ラベルと表示
輸出先国の規制に従い、製品のラベルや表示が適切であるかを確認します。例えば、成分表示は輸出先国の言語で記載しなければならない場合があります。また、製品の効能や使用方法についても、現地の法律に基づいた表示が求められますので、事前に調査が必要です。

・輸出先国の規制対応
食品と同様に肌に付ける化粧品は、様々な規制がございます。それらは輸出先国毎に異なり、各々に対応する必要があります。代表的なものとして、以下の規制があります。

FDA登録(アメリカ)
アメリカへ化粧品を輸出する場合、FDA(食品医薬品局)への登録が必要です。製品の成分や製造施設の情報を提出し、FDAの基準に適合していることを確認します。

NMPA規制(中国)
中国への輸出には、NMPA(国家薬品監督管理局)の規制に従う必要があります。事前にサンプル提出と品質検査を行い、輸入許可を取得します。

REACH規制(EU)
EUでは、REACH規制(化学品の登録、評価、認可および制限に関する規則)が適用されます。製品に含まれる化学物質の登録や評価が必要であり、事前に準備することが求められます。

 

輸送の注意点:危険品としての取り扱いと規制対応

輸送上の注意点として重要なのは、「危険品」に該当するか否かです。

マニキュアが危険品に該当することも

日常的に使われているものですので、危険品該当と聞くと意外に思われると思いますが、一例を挙げると、香水やネイルグッズなどは、アルコールといった引火性液体が含まれるため「危険品」として取り扱う必要があります。またヘアスプレーなどのスプレー缶は高圧ガスと分類され、輸送が制限される可能性もございます。

 

これらの判定の根拠となるものが、Safety Data Sheet(SDS)の項目14、「輸送上の注意」で、危険品に該当するのであれば、国連が定めるクラスや番号、包装・梱包方法などが記載されており、その分類に基づいた輸送が必要となります。

航空貨物の場合は、IATA(国際航空運送協会)が定める「危険物規則書」の規定を満たさないと航空機に搭載できません。「危険物規則書」は毎年見直しが行われるため、航空貨物を取り扱うフォワーダーは最新の内容を常に把握し、実務に反映する必要がございます。専門的な内容も多いため、資格試験も実施されています。危険品申告書は、「危険物規則書」に則り、一言一句相違なく作成しないと航空会社に受託されません。

化粧品輸出における通関注意点:ワシントン条約と麻薬規制対応

通関上の注意点は、「輸出貿易管理令別表2」に記載されている「ワシントン条約」と「麻薬または向精神薬の原材料等の輸出」です。

キダチアロエもワシントン条約に該当

ワシントン条約と聞くと、象牙や毛皮をイメージされる方が多いかもしれませんが、希少な動植物やそれらの派生物、またそれらを由来とした製品も対象となります。具体的には、クレオパトラも美容と健康のために使用していたという伝説があるアロエの一品種である「キダチアロエ」が該当します。

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・アロエ属全種は、ワシントン条約附属書Ⅱに掲載されており、輸出入には承認等の手続きが必要です。品種によっては、附属書Ⅰに掲載され、より厳しい規制がなされているもの、逆にアロイ・ヴェラ(アロエベラ)のように、規制対象外となっているものもあります。成分・材料を正確に把握し、適切に該非判定を行う必要があります。
・事例のキダチアロエ(附属書Ⅱ)含有の化粧品を輸出する場合には、経済産業大臣の輸出承認を受け、ワシントン条約に基づくCITES許可書を取得する必要があります。
・この他、ラン、サボテン、キャビアエキス等を成分・材料として使用した化粧品の輸出入で違反する事例が散見されますので、注意が必要です。
                 *令和6年4月 経済産業省 貿易経済協力局 貿易管理部 貿易管理課 発行
                                「事後審査事案の傾向・事例」より一部抜粋
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その他、保湿成分として使用される「スクワラン」がサメ由来である場合なども確認が必要です。例としては、ウミチョウザメやバルチックチョウザメが含まれます。動植物由来の成分を含んでいる場合、「ワシントン条約」に該当しないことを確認・証明することも輸出者の義務の一つとなります。

「麻薬または向精神薬の原材料等の輸出」にも関連するというと、驚かれるかもしれませんが、一例としてネイルリムーバーには「アセトン」が含まれていることがあります。「アセトン」は濃度によっては麻薬向精神薬原料に該当する場合があるため、注意が必要となります。麻薬向精神薬原料は、国際的には「麻薬及び向精神薬の不正取引の防止に関する国際連合条約」、日本国内では「麻薬及び向精神薬取締法」によって規制されています。これら「外国為替及び外国貿易法(外為法)」の規定については、HSコード等の判断が難しい場合がありますので、弊社までご相談ください。

化粧品は、使用される方が安全に安心して使えるよう輸入国側でのライセンスが求められる他、含有成分や安全輸送、さらに他法令に関する確認と目を配る範囲が広い品物といえます。そのため化粧品の輸出は、商品の特性や仕向地事情に精通し実務知識や経験が豊富なことも求められてきます。

これから年末商戦に向けた、クリスマス時期に限定コフレ(化粧品のセット)や、アドベントカレンダーを販売されるメーカーもあるので、9~11月が化粧品輸出の繁忙期になります。弊社では中国、アジア向けはもちろんのこと北米、欧州向けの取り扱い実績も多数ございますので化粧品の輸出入に関するご相談がございましたらぜひお問い合わせください。

 

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