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知られざる側線作業、石油鉄道輸送業務とは

日新グループでは、各地に広く一般にご利用いただける倉庫や現場を展開しておりますが、今回は特定のお客様の工場や現場に事務所を開設し、専門的な作業を請け負うチームをご紹介させていただきます。

側線作業課の業務とは

横浜駅から京浜東北線で約10分、根岸駅のホームの海側には高速道路を挟んで広大な大手石油元売メーカーの製油所を垣間見ることができます。その製油所構内に当社、化学品営業第一部 根岸事業所と実作業を担当する日新産業 根岸事業部は位置します。そのスタートは製油所が開設された1963年に遡り、石油製品の構内・受入出荷業務の一翼を担い、様々な業務に携わっています。

その中でも側線作業課という聞きなれない名前を持つ部署は、構内を出入りするタンク車の入換**作業を担当し、出荷に伴う業務や返却されてきたタンク車の対応や管理を総合的に請け負う、小さな鉄道会社といった性格を持つ部署となります。
タンク車に積載された品物は全て危険物。常に危険と隣り合わせという緊張感ある鉄道の現場は、安全作業・安全輸送が徹底されており、2022年度も無事故を達成しました。これは基本的動作の合図や復唱、指差確認を各所でしっかり行うことを徹底した結果です。

それでは知られざるプロフェッショナルな世界、日新産業 側線作業課内の3つの業務に触れていきたい思います。

**入換(いれかえ)とは、構内で鉄道車両を移動させる作業のこと

計画

中央線を走る根岸行列車

主に内陸の5拠点と根岸駅を結び、1日最大32本の貨物列車の発着に対応し、タンク車の入換作業や組成計画が主な業務となります。

少々複雑な鉄道会社との関係性ですが、根岸駅と各拠点との発着はJR貨物が担当、根岸駅の構内の入換は神奈川臨海鉄道が担当しています。日新産業は根岸駅と製油所構内との受渡、また製油所構内の作業が担当範囲となります。各地から戻ってきたタンク車を受け取り、構内での留置や入換を行います。同時に石油製品を積み込んだタンク車発送作業、組成や入換、根岸駅への送り込みを行います。発着する両面での対応を行っています。

季節的な出荷量の変動も大きく、繁忙期が12月~3月。年末にピークを迎えます。北関東甲信地方といった寒冷地向けの灯油の需要が高まるからです。寒波が来た際には急遽対応することもあります。また、ゴールデンウィークやお盆休みといった行楽シーズン前にはガソリンの需要が高まるため、忙しくなる傾向にあります。

出荷する石油製品の内容は日々変化します。出荷前日に各拠点への出荷予定表が届き、それに合わせてどのタンク車を何両連結すればよいのか?という翌日の組成を考えます。例えば八王子まで軽油が〇両、ガソリンが〇両、灯油が〇両といった具合です。単純にタンク車を連結すればよいのではなく、積載される油種により使用出来るタンク車が限定され、また各々のタンク車に設定された検査期限を守るという条件も加わります。それらも考慮し効率的な入換作業が求められます。全ての作業がこの工程で決まるので、非常に複雑かつ重要な作業となります。こうした作業計画を立案できるのは現在20名ほどの職場の中でも経験の長い3名に限られています。

信号所

無線連絡をうけ、継電連動盤を操作しポイントの切り替えを行う
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信号所とは司令塔ともいえるところです。前日に立てた作業計画表に沿って業務を進めて行きます。地上から無線連絡を受けて、構内各所のポイントを一括で操作します。継電連動盤と呼ばれる装置で線路の進路の構成を行う作業は、現在6名が担当していますが、こちらも相応の経験が必要な職種です。作業の要ともいえる部門であり、無線を聞きながら連動盤の操作を行うため、かなりの集中力が求められます。

機関士

運転業務を行うには、JR貨物が定める運転適性検査や甲種内燃車運転免許という国家資格の取得が必要となります。日新産業では8名の機関士がおり、今年も新たに免許を取得した2名が数カ月にわたるJRの研修を終えました。

機関士の当日作業は、A番、B番の2組に分かれ、入換順序表という作業指示書に基づいて行われます。午前と午後から夜間までの作業行程が具体的に細かく記載され、機関士は指示書通りに作業を進めます。

一般的な鉄道とは違い操縦席は、進行方向ではなく横を向いています
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機関車は自動車と違いエンジンを掛けてすぐに走らせることができません。作業開始の30分以上前に機関庫に入り、出庫点検を始めます。具体的には各部のオイルの量やベルトの張り具合等を点検し、異音がないか等をチェックして運用に入ります。作業終了後にもまた入庫点検があり、各部を点検してから作業を終える手順です。

危険物を製造する製油所構内のため、火災の危険を回避する義務があります。機関車の各部は防爆仕様になっています。スイッチ一つに関しても火花が散らない仕様になっていて、排気も一旦水を噴霧して温度を下げてから排出するといった特殊機能を備えています。入出庫の点検時にはこの装置への水の補給も必須の項目です。現在機関車は3両あり、常時2両を使用・1両を予備としてまわしています。

運転中は、常に安全を意識して各動作を行っていますので気を抜ける瞬間がありません。指示が確認できなければ、一旦作業を止めて、まずは確認することを徹底しています。最大で30両近いタンク車が連なると数100mにおよぶため、機関車からは全く後方のタンク車がみえない状態になります。無線での指示だけが頼りなため、かなりの集中が求められます。そのような中でスムーズな連結作業(—”ガチャン”という音と衝撃ではなく、連結器がスムーズに重なり合い”カチャン”という音が無線から聞こえるのと同時に停止する)に職人的なやりがいや楽しみを感じると機関士は語ります。また運転側だけでなく誘導・連結の担当も、自分の指示通りに上手く作業ができたときには同じようにやりがいを感じるそうです。

取材を受けてくださった機関士が、20年以上前に免許を取得して研修所を終える際に訓示を受けた言葉、
  「クレーンや重機が引き上げる重量よりも、君たちが引いて止める方が大きな重量を扱っている。
     すごいことに携わっているということと安全を忘れずに取り組んで欲しい」
今でも鮮明に覚えていて、自分が運ぶ荷物と安全性の重みを胸に職務に取り組まれているそうです。

東日本大震災時に根岸から繋いだ輸送

通常は北関東までを輸送範囲としていますが、2011年に起きた東日本大震災では、震災の影響で東北にある精油所が被災し、急遽根岸駅から石油を届けることが決まりました。
岩手の盛岡や福島の郡山といった地域へ、根岸から日本海側をぐるりと回る輸送は、通常貨物列車が通らないルートや普段使用しているサイズのタンク車では軸重の関係で両数制限があったり、遠隔地まで毎日輸送する必要性から貨車が足りず、急遽小型のタンク車を根岸に集結させて発送するなど、様々な制約の中、関係する各社が協力して運行に漕ぎつけました。限られた時間の中で厳しい作業の連続でしたが、東北へ自分たちが繋げるんだという、社会インフラを支えている使命感で、チーム一丸となって取り組みました。

なかなか普段は目にすることのない作業に取り組んでいる側線作業課のメンバー。石油製品の輸送という生活に欠かせない社会インフラを支え、各々のスタッフが安全に送り届けるという使命感に満ちた事業所です。みなさまが給油されたそのガソリン、ひょっとしたら彼らが送り届けた製品かもしれません。


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