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コンテナ船接触による橋梁崩落事故(米国・ボルチモア港) 

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2024.04.17

米国・東海岸の港湾都市であるボルチモアのパタプスコ川に架かるフランシス・スコット・キー橋(Francis Scott Key Bridge)の橋脚にコントロールを失ったシンガポール船籍のコンテナ船DALIが接触、その直後に橋が崩落するという大変痛ましい事故が発生しました。
現地時刻3月26日の事故発生からの概要とその影響やボルチモア港周辺についてご紹介いたします。

事故の概要

マースクラインのTP12サービスの傭船の一隻として運用されていた本船”DALI”(以下、DALI)は、4,679TEUのコンテナを積載して、ボルチモア港の主要なコンテナターミナルであるシーガート マリン ターミナル(Seagirt Marine Terminal)からスリランカ・コロンボに向けて現地時間の3月26日0:44に出港。湾内を旋回し船首を南東に向けましたが、何らかのトラブルにより電源を喪失しコントロールがきかない状態に陥りました。
DALIは関係当局に対しフランシス・スコット・キー橋に衝突する可能性がある旨通報を行うと、当局は同橋を通るI-695号線の交通をただちに規制しました。DALIは1:26頃に規定の航路から外れると約2分後の1:28頃、南東側橋脚に衝突・崩落し、保守作業をの行っていたブラウナー・ビルダーズの作業員8名が巻き込まれ、海上に投げ出されました。

乗組員の証言では、
「エンジンがガラガラと音を立てて停止した。焦げた匂いが充満し、真っ暗となった」
「衝撃を和らげるために左舷に切り、錨を下ろすなどの措置を取ったが、回避できなかった」
との報道がされております。

原因については当局の調査が続いており、港の出入口を塞ぐように崩落した橋梁の部材により船の出入りができない状況のため、現在ボルチモア港は閉鎖されています。またDALIには危険品が積載されているコンテナが56本あり、うち14本が影響を受けているとの報道もあります。現時点で危険物質などの流出などはなく関係当局が引き続き、モニターしている状況です。

フランシス・スコット・キー橋北側より、事故現場方向を望む

現地時間3月30日からは、陸軍工兵隊を中心とするチームが残骸の撤去作業を開始しました。
北側部分から切断作業を行い、順次解体が進んでいるものの、水中に没した部分が複雑に橋梁部材と絡み合っており、作業手順の確認に多くの時間を要しております。また事故現場付近の海底には天然ガスパイプラインも設置されており、段階的に圧力を下げるなどの措置が取られていると発表されています。

事故発生後の対応

橋梁の部材が覆い被さる本船:DALIの船首

フランシス・スコット・キー橋は、外洋からボルチモア港への入口に位置しています。現在も本船が事故発生時と同じ場所に停止しているため、事故処理が完了するまでボルチモア港を管轄するメリーランド州港湾局は当面の間、同港の船舶発着を停止すると決定しました。閉鎖措置が取られているため、各運行船社は寄港を見合わせる措置が取り、現在の時点では再開の見込みは立っておりませんが、5月末日の航路復旧を目指している旨の報道もございます。

 

DALIを運行するマースクラインは、当面全サービスで寄港を中止すると発表しました。
すでにボルチモア向けに出荷・輸送途上にある貨物については、最寄り港で荷揚げし、陸上輸送で目的地に配送される予定です。現地時間4月1日にはDALIの船主グレース・オーシャン社と船舶管理を担うシナジーマリーン社は、メリーランド州北地区連邦裁判所に米国法に基づく責任制限の申し立てを行い、現時点での責任限度額の試算では、4,367万ドル(約66億円)と見込まれる旨、また保険金請求額が最大で30億ドル(約4,540億円)に上るといったの報道もありました。またボルチモアを経由するエバーグリーン、在来船を運航するワレニウスはブッキングの一時停止措置を取っております。また4月12日には運行船社であるマースクラインから、船主が共同海損を宣言した旨の情報もございます。

陸軍工兵隊を中心とする作業チームが連日復旧工事に当たり一部に航路が確保されていますが、水深も浅く、ごく小さな船舶が日中のみ航行可能といった状況です。現地時間4月2日には第2の仮設の航路がオープンしましたが、水深:約4.3m、幅:約85m、高さ:約38mと、大型船舶が安全に航行できるものではありません。当面は閉鎖が続くと予想され、近隣の主要港であるニューヨーク、ノーフォーク、サバンナなどへの迂回といった措置が取られる見込みです。

また湾外にある自動車専用ターミナル(Tradepoint Atlantic Terminal)については崩落の影響を受けない位置にあります。

現地交通環境におよぶ影響

米国東海岸を南北に貫く主要高速道路のインターステート95号線、そのボルチモア市内の迂回ルートとしての性格を持つインターステート695号線のルート上にフランシス・スコット・キー橋はあります。

ボルチモア市内には95号線の他、895号線も並行していますが、湾を横切る箇所に各々海底トンネルが存在し、危険物を積載した車両の通行が規制されています。695号線は単なる迂回路というものではなく、こうした車両の走行路としての性格も持ち合わせていました。

また他港で揚げたコンテナを鉄道で迂回輸送するといったプランを同地を通るCSXが発表した旨の情報もありますが、ボルチモア市内には古くに建設されたためトンネル高さが低く、米国内で一般的に用いられているダブルスタック・トレインが通過できない区間が存在します。コンテナの2段積みができないため、単純に輸送力は半減してしまい懸念が生じる部分です。

ボルチモア港とは?

ボルチモアに入出港する自動車運搬船

80万の人口を擁するボルチモアは、港湾都市として栄えてきた歴史があります。ワシントンからチェサピーク湾を200km程さかのぼった位置にあり、古くは南部産のタバコの輸出港として栄えました。1830年には全米最初の鉄道(Baltimore & Ohio)が開通し、後背地であるペンシルベニア炭田の開発が進んだことにより造船・鉄鋼といった工業が発達しました。

現在ではメリーランド州港湾局の運営の下、6つの公共ターミナルが運用されています。海上コンテナの取扱いはシーガートマリンターミナル(Seagirt Marine Terminal)、ダンドークターミナル(Dundalk Terminal)を主体に行われています。大水深バースの整備も完了しており、超大型のコンテナ船の着岸も可能となっています。

乗用車や小型トラックを主体とした自動車の取扱いについては全米でも有数の規模で、2023年では85万台近いの取扱実績があった旨の報告もあり、フェアフィールド オートモーティブターミナル(Fairfield Auto Motive Terminal)といった自動車専用ふ頭も存在しています。そのため、日本との関係も深い港ともいえます。

また同港の輸出品目の中には石炭の占める割合も多く、後背地のペンシルベニア炭田からNS(Norfolk Southern)とCSXの2つの鉄道会社が石炭専用ふ頭に直接乗り入れています。ここから日本の火力発電所向けに発送される石炭もあるそうです。

事故が発生する以前のフランシス・スコット・キー橋

フランシス・スコット・キー橋の東側のふもと、スパローズ・ポイント(Sparrows Point)周辺には、近年大手EC業者や流通業者の倉庫、欧州の自動車会社の物流拠点が整備されていますが、閉鎖が長期化すれば、近隣の港湾への貨物が集中や西海岸へのシフトが加速する可能性などがございます。

今後の見通し

各所で残骸の切断作業が進む

現時点では港湾閉鎖解除の見通しは立っておりません。現場では650㌧と330㌧のクレーンが、ガスで切断された橋脚の残骸を吊り上げ、順次集積場所とされたトレードポイント・アトランティックターミナルへ輸送しています。しかし水中の視界が悪いことや橋梁の残骸が複雑に絡まり、撤去作業は非常に時間を要する作業となっています。

 

 

橋梁の残骸撤去を前に、支障するコンテナの撤去を行う

現地時間4月7日からはDALIの移動を目的として、覆い被さっている橋梁の残骸を撤去するために、まず船首部分の周囲のコンテナの撤去作業が始まりました。4月11日の時点では38個のコンテナの撤去が完了し、引き続き撤去作業が継続されています。また5月末の航路復旧を目指すといった報道もございます。

しかし復旧作業が長期間に渡った場合には、港湾労働者の失職の問題や国際港湾労働者協会(ILA)と米国海洋連合(USMX)との基本労働協約(東岸労使交渉)が本年9月末に期限を迎える事案にも影響をおよぼしかねない状況にあります。

当社では現地法人:NIT(Nissin International Transport U.S.A INC.)と連携し、随時輸送状況の確認と最新の復旧状況の提供を行っております。米国東海岸を中心とした輸送をご計画されているお客様につきましては、ご相談ください。

 

陸揚げされる橋梁の残骸

本文執筆にあたり、Key Bridge Joint Information Centerから情報・写真提供をいただきました。

 

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