高まる細胞輸送のニーズと新幹線への期待:未来の医薬品コールドチェーンを支える新潮流
近年、再生医療等製品やバイオ医薬品など、輸送中の厳格な温度管理が必要な製品の開発が急速に進んでいます。わずかな温度逸脱でも品質に影響し、患者さんの健康に関わる問題に発展する可能性があるため、メディカル・バイオ製品サプライチェーン全体での徹底した品質管理が不可欠です。
一方、物流業界は2024年問題に象徴されるドライバー不足に直面しており、安定的な輸送力の確保が課題となっています。このような状況において、「定時性」「高速性」「輸送物への衝撃の少なさ」を持つ新幹線がメディカル・バイオ関連輸送の新たな選択肢として注目されています。環境負荷が少ない点も、企業のESG経営の観点から大きなメリットです。
本実証実験は、パナソニックの真空断熱保冷容器「VIXELL」と日新の物流知見を融合させ、増大する細胞等、再生医療関連の高品質輸送ニーズに応える革新的なコールドチェーンソリューションの可能性を検証するものです。
テスト輸送の概要
2025年7月1日(火)から2日(水)にかけて実施された本実験では、パナソニックの真空断熱保冷容器「VIXELL Box」2箱を使用しました。一つはドライアイスで超低温(-79℃対応)、もう一つは15℃~25℃の定温に設定し、それぞれにヒト骨髄由来間葉系間質細胞(MSC)を搭載。MSCは再生医療分野で注目されるデリケートな細胞であり、その品質維持が極めて重要です。

輸送ルートは、千代田化工建設(最寄:新子安駅)を出発し、東京駅を経由して新青森駅へ。そして再び東京駅に戻り、新子安駅へ帰着する約1,400kmほどの往復ルートです。往路の新子安駅から新青森駅まで、担当者が容器をハンドキャリーで輸送しました。
復路の新青森駅から新子安駅は、ジェイアール東日本物流が提供する新幹線の即日配送サービス「はこビュン Quick」を利用して輸送しました。(東京駅から新子安駅まではハンドキャリー)実際の輸送時間は、往路が約5時間40分ほど、復路が約4時間30分弱で、合計10時間ほどにも及びました。

また今回の実証実験では、輸送環境情報を詳細に取得するため、複数の計測機器を容器内に設置し、各種データを記録いたしました。
検証項目については以下のポイントに焦点を当てました。
■ 総輸送時間の測定: 新幹線輸送における実際の所要時間を確認。
■ 新幹線輸送での位置情報取得: 高速移動中の位置情報把握*の可否。
■ 細胞の品質検証: 復路輸送完了後、輸送した細胞と輸送していない細胞を比較し、細胞数、生存率、増殖能力の変化を確認。
*位置情報把握は、輸送終了時に位置トレースデータを確認することにより実施しました。
VIXELL Box容器内にはそれぞれ、適切な温度管理のためのドライアイス約12kg、保冷材、そして細胞と計測器をセットしました。人が直接運び、新幹線で輸送することで、現実的な環境下での検証を可能にしました。さらには、復路で「はこビュン Quick」サービスを利用することで、一般的なトラック輸送との比較検討を行いました。
新子安から新青森までの往路・ハンドキャリー輸送実験の様子
「はこビュン Quick」を利用した復路輸送の様子
「はこビュン Quick」は、ジェイアール東日本物流が提供する、新幹線を活用した新しい荷物輸送サービスです。新幹線の「高速性」「定時性」「安定性」という強みを活かし、その日のうちに荷物をスピーディーに輸送することを可能にします。旅客列車と同じネットワークとダイヤを利用するため、高頻度な運行と高い時間精度が特徴です。
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| 業務用エレベーターでホームへ | 専用スペースに積み込まれる | 積み付け状況 | 作業後、直ちに施錠される |
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| 到着後、すぐに荷下ろしが始まる | 車内から荷物が下ろされる | 業務用エレベーターで移動 |
新子安駅までは京浜東北線での移動となりますが、ここでも細心の注意を払い、最終目的地までの輸送を行いました。
実証実験の結果:新幹線による超低温輸送の精度を徹底検証
以下の通りの検証結果となりました。
| 評価項目 | 測定内容 | 結果 | 考察 |
|---|---|---|---|
| 輸送時間 | 新幹線利用時の所要時間 | 約4時間30分(トラック輸送:8-10時間) | 大幅な時間短縮により温度逸脱リスクを最小化。治験薬・検体輸送における信頼性向上を実証 |
| 定時性 | 運行スケジュールの遵守率 | 計画通りの輸送スケジュールを確保 | 高い定時運行率により予測可能な輸送計画が可能。サプライチェーン管理の信頼性向上 |
| 振動レベル | 新幹線区間の振動測定(神栄テクノロジー社協力) | トラック輸送と比較しておよそ半分程度の振動レベルを確認 | 機械的ストレスに脆弱な細胞製剤、バイオ医薬品、臨床検体の品質保持に有効 |
| 温度管理 | VIXELL Box内部温度の測定 | ①-82℃~-81℃の超定温を維持(実測値)
②20.9℃~21℃の定温を維持(実測値) |
長距離・高速輸送でも高い断熱性能を確認。コールドチェーンの完全性を保持 |
| 細胞品質 | 輸送したMSCの生存率及び細胞形態への影響 | 生存率・形態の観点においてはMSCの性質に影響を与えていないことを確認 | 結果を補強するための追加のデータ収集を検討 |
| トレーサビリティ | GPS機能による位置トレースデータ記録(箱外・箱内) | 輸送終了後の位置トレースデータ確認を実施。全データが管理範囲内 | 輸送経路の事後検証が可能であり、輸送システムの信頼性を実証 |
今回の結果から、新幹線とVIXELL Boxを組み合わせた医薬品・医療品の高品質で安定的なコールドチェーン輸送が実現可能であり、実用段階へ大きく近づきました。
日新は今回の実証実験で得られた貴重なデータと知見を活かし、関係する各企業と連携しながら、メディカル・バイオ業界で求められる高品質で持続可能な新たな輸送ソリューションの実現に取り組んで参ります。今回の実証実験結果や「VIXELL Box」をはじめとした真空断熱保冷容器「VIXELL」を活用した各種メディカル・バイオ輸送サービスについて、ご関心がありましたらぜひお問い合わせください。
<お問い合わせ先>
(株)日新 DX推進部 医薬品事業推進課
mail : nissin_medical@nissin-tw.com
取材協力(文中敬称略):千代田化工建設㈱ 東京海上日動火災保険㈱ ㈱ジェイアール東日本物流 パナソニック㈱















