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相次ぐコンテナ船の火災事故と共同海損

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2024.10.30

7月から8月に掛けて、コンテナ船の爆発・火災事故が連続して3件、発生いたしました。

 

①7月19日 インド・ムンドラ港からスリランカ・コロンボ港に向けて航行中のMAERSK FRANKFRUT の船首付近のデッキ上に積載されたコンテナが爆発。インド・沿岸警備隊による 消火活動が行われたが、鎮火まで10日間以上を要した。同船は中国・韓国~インド・パキスタンを結ぶ航路に投入された、2024年5月に竣工した新造船。運行船社のMAERSK社は、7月末に共同海損を宣言、手続に入ったことが報道された。

 

②8月9日 13:40頃、中国・寧波港にて荷役中のYM MOBILITYの船首付近に積載されていたコンテナが爆発・炎上。周辺1km圏内にも衝撃波が届く程の大きな爆発だった。当該部分には危険品が積載されていたという情報もあるが、詳しい原因は調査中。運行船社のYANG MING社は、8月18日に共同海損を宣言したことを発表した。

 

③8月11日 0:30頃、シンガポールから到着しスリランカ・コロンボ港にて荷役中のMSC CAPETOWNⅢの甲板下に積載されたコンテナが炎上。周囲のコンテナにも延焼し、爆発した。同船は東南アジアとアフリカを結ぶ航路に投入されていた。出火原因については調査中。

 

各々詳しい原因は調査中とされていますが、積載されていた危険品が関係しているのでは?といった情報もあり、関連する船社サービスや港湾での取扱・判定基準に影響を及ぼす可能性も取りざされております。今回は①②の事故で船社より宣言が発表された、共同海損についてご紹介いたします。

共同海損(General Average)とは?

今回発生した3件の事故のうち2件については、共同海損が船会社によって宣言されました。あまり聞きなれない言葉ではありますが、その意味を紐解いてみたいと思います。

共同海損の考え方は、現代の航海術や船舶技術が発達する以前の古い時代に遡ります。技術的に安全な航海がなかなか担保出来ない時代、多くの船が様々な海難事故に直面しました。荒天による座礁、沈没事故や船火事など、多くの人命や積載された貨物が失われることになりました。

そのような事故が発生した際、被害を最小限に食い止めるために様々な緊急措置が取られてきたのですが、時には部分的犠牲によって全体の利益を図る必要もありました。

冒頭でご紹介した火災事故と仮定した場合は、以下の費用(損失)が発生します。

①投荷         延焼を防ぐために、積載された貨物の一部を海上に投棄する
②救助作業       救助業者による救助活動、消火活動
③避難港における費用  避難港への入港、停泊、その他の費用

無事に航海に戻れたとして、このような費用負担が発生する訳ですが、その費用負担を船会社やたまたま犠牲を払った人たちだけでなく、船と貨物の「共同のリスク」として、助かった人を含めた利害関係者で公平に分担すべきという考え方が生まれました。

荷主からしたら「預けた品物をなぜ勝手に投棄されるのか」、「せっかく助かったのに、どうして作業や修繕費用まで払わなければいけないのか?」と納得いかない話であると思いますが、当時の航海術ではそれだけ多くのリスクを孕んでおり、航海中の危険は利害を共にする船主と荷主で分担すべきものとして、共同海損といった考え方が生まれる背景に繋がりました。

現代の共同海損

このような背景から生まれた共同海損の考え方は、現代の海上貿易に於いても息づいています。国際的な統一ルールとして、ヨーク・アントワープ規則が制定されており、共同海損が宣言される場合は、この規則に則り各種対応が行われます。

同規則 RULE A には、共同海損の主な成立要件として、次の5つが挙げられています。

・船舶および運送品に共同の危険が生じていること (Peril)
・犠牲あるいは費用は異常なものであること (Extraordinary Sacrifice or Expenditure)
・危険から脱出しようと何らかの意思が働くこと (Intentional Act)
・故意にしてかつ合理的な行為であること (Reasonableness)
・船舶及び運送品の共同の安全を守るための行為であること (Common Maritime Adventure)

MAERSK FRANKFRUTの火災事故

また共同海損の範囲内で認められる費用としては、大まかに以下の項目とされています。

・投荷や火災消火に伴う水濡れなど、貨物への損害
・避難港への入出港や貨物の積み下ろし・保管などの費用
・救助やえい航に伴う費用、それに伴う船体や機関などの損害
・航海期間延長に伴う乗組員の給食などの船費

上記の基本4項目の条件を満たし、且つ規定された範囲内の損害・費用であれば、共同海損として、荷主への費用分担の手続が行われることになります。

共同海損が宣言されると…?

 

YM MOBILITYの共同海損宣言書

船会社が共同海損を宣言すると、荷主に対して「共同海損宣言書(General Average Declaration Letter)」が送付されます。その書面上には各種手続の窓口となる「共同海損精算人(General Average Adjuster)」の連絡先、また必要となる書類の明細が記されています。
共同海損の精算は、事故の経緯や発生費用の調整や算出など非常に複雑で、この業務を専門に行っている事務所や会社が指名されるのが通常です。各荷主への分担金は、この精算人が調査の結果を基に決定しますが、それまでに相応の時間を要することがあります。

 

また一般的には以下の書類の提出を求められます。

・共同海損盟約書(Average Bond)
事故を共同海損として処理する旨、共同海損分担金の支払い、正当な貨物の価格の申告を約束する書面として、荷主から船会社に対して発行する書面です。実際には所定のフォームに記入し署名、提出することとなります。

・価格申告書(Valuation Form)
各々の荷主の共同海損分担金の金額は、積載されていた貨物の価格を算出割合の根拠とするため、この書面にて申告します。

・共同海損分担保証状(General Average Guarantee Letter)
海上保険に加入していた場合、保険会社から発行される書面で、共同海損分担金などの支払いを荷主に代わって支払うことを保証する旨が記載されています。

一口に保険と呼ばれていますが、正式には外航貨物海上保険という名称で、海難事故で想定される様々な種類の損害を網羅するものとなっています。その中には「共同海損」も含まれており、宣言によって発生する分担金、それに伴う諸手続などをカバーするとされているのが一般的です。

貨物保険会社に対して船積書類(B/LやINVOICE、保険証券などの付帯書類)の提出が求められます。外航貨物海上保険(通称:モノ保険)に加入していれば以降の手続を貨物保険会社が代行して行うため、共同海損分担金の支払いをはじめ、精算人から求められる書面や情報の提出・やり取りなどを任せることが可能です。貨物の引取りについても、物理的な支障が無い限りは共同海損分担保障状の提出を以て可能となります。

しかしモノ保険に加入していない場合は、これらの複雑な手続を自力で行う必要がある他、時には高額となる共同海損分担金の支払いを行わなくてはならないなど、その労力は事務的にも金銭的にも大変大きいものとなってしまいます。共同海損分担金を支払わない限りは、貨物の引取りが出来ないといった、実務面での支障も大きくなることが予想されます。

また混載貨物のように一つのコンテナの中に複数の荷主が存在する場合は、各々の荷主から各種書類や情報を集める必要があります。これらの必要書類が全て揃わない限り、到着地にて混載貨物を積み込んだコンテナの引き渡しを受けることが出来ません。

インド沿岸警備隊による放水作業

海難事故はいつ、どこで発生するか分かりません。今回ご説明しました共同海損といった事象に巻き込まれてしまう可能性は、僅かではありますが、全ての船積にあると言えます。こうした事象に備えるためにも、モノ保険の付保が重要な要素となってきます。普段から手配している船積が、実は事故が起きてから無保険だった…という事例もございます。大きなリスクを避けるべく、今一度モノ保険付保に関してご確認頂けます様、お願いいたします。

 

本文執筆に際し、インド沿岸警備隊より写真・情報の提供頂きました。