フォアマンとは
港に到着した本船の貨物やコンテナの揚積みを行うことを「荷役作業」といいますが、その荷役作業全般を統括、監督する人を「フォアマン」と呼びます。
その範囲は広く、本船入港前には船会社との連絡に始まり、各所への確認作業、荷役作業の計画・立案、それに伴う作業員や必要となる資機材の手配などを行います。本船到着後は実際に現場に赴き、本船上と岸壁を往復しながら、事故なく効率的に貨物を揚積みし作業を進め、監督・指示を行う重要な役割を果たす仕事となります。
当社では現在複数の在来船社との契約を持ち、横浜港・神戸港に発着する定期船(ライナー)の4つの航路に発着する定期船の作業手配を行っております。
イースタン・カーライナー株式会社 | 横浜~ベンガル湾航路 (ミャンマー・バングラディシュ・パキスタン・インド・スリランカ航路) |
NSユナイテッド海運株式会社 | 横浜~中国・台湾航路 神戸~中国・台湾航路 |
東興海運株式会社 | 横浜~インドネシア航路 神戸~ベトナム・タイ・華南(中国・台湾)航路 神戸~ストネシ(シンガポール・マレーシア・インドネシア)航路 |
NYKバルク・プロジェクト株式会社 | 横浜~中東航路 |
上記定期船の他、チャーター船/不定期船(トランパー)等が入港する際には、随時作業手配を行っております。
お客さんは船会社?
当社で海上輸送のブッキングや付帯作業となる通関、倉庫作業を受託する場合は、荷主や荷受人がお客様になりますが、港運の作業では直接的なお客様は船会社になります。
各所と緊密な連携を取りつつ、スムーズな入出港や荷役作業ができるように様々な仕事を進めていきます。
フォアマンの手元には船会社より船舶代理店経由にてSailing Instruction(航海指図書)と呼ばれる書面が本船入港予定日の10日~14日前に届きます。
船会社が発行するこの書面には当該本船のスケジュールをはじめ、航海に関わるあらゆる情報や指示、条件が記載されており、いわば作業依頼書のような位置づけとなる書面になります。
スケジュールとともに、寄港する各港の代理店連絡先等も記載され、この書面から必要となる各種情報を読み出していくのが最初の仕事になります。船長に対して航海速度に関する指示が入ったり、航海中の事故防止ため、船倉内の貨物固縛に関する説明など運行や安全に関する部分まで踏み込まれています。
積載予定貨物を読み解き「追い出し」を行う
Sailing Instructionを受領してしばらくした後、今度はBooking Listが届きます。
荷主名・通関業者(乙仲名)といった情報から品名・個数・容積(m3)/重量(ton)といった貨物明細の内容になるのですが、一筋縄では行きません。あくまでもブッキング時の情報一覧であるため、実際の貨物のサイズや荷姿の確定した数値は記載されていません。
また、コンテナ船と異なり、在来船では港湾地区での貨物の受渡しの方法についても合わせて都度確認の必要が出てきます。これらの情報を乙仲(通関業者)にコンタクトして貨物個々のパッキングリストを入手し、確定した船積貨物情報を一つずつ集めます。
【事前確認が必要になる事項】
①貨物サイズの確認
L(長さ)× W(幅)× H(高さ)、荷姿、重量の数値
②貨物の受渡の方法の確認
在来船の貨物の受渡は基本的に以下の3つに大別されます。
TRS(Terminal Receiving System) | 船社に指定された上屋・岸壁で事前に受け取る制度 |
船側受け・船側渡し | 荷役作業当日に本船船側にてトラック・トレーラーとの受け渡しを行う(GO DOWNともいう) |
艀受け・艀渡し | 本船船側に艀(はしけ)を付け、貨物の受け渡しを行う |
これらの情報を取りまとめて、全体的な作業量のサイズ感や工数・行程を把握します。個数・数量が明確となり、実際の作業計画の立案の段階に進みます。これらの確認作業を「追い出し」と呼びます。この作業が遅れると後々の手配にも響くため、迅速かつ確実に進める必要があります。この段階で荷姿が特殊な物、重量品等、取り扱いに注意が必要なものに目星を付けていきます。
ストウェージ・プランと呼ばれる作業計画の立案
本船への積載にはStowage Plan(ストウェージ・プラン)と呼ばれる積み付け図を作成します。船社より「本船上の積み付け場所に関する指示や図面が提示されるので、その中に積載できるようなプランを検討していきます。
荷姿や重量、積載のバランスを考えながら、船倉内への貨物の配置や積み付けと並行して、関係してくる様々な条件にも対応していきます。
①GANG手配:ギャングと呼ばれる船内作業を行う作業員のグループをいくつ手配する必要があるのかを確認した上で手配する。
②荷役機材の手配:作業に必要となるスペックを満たしたクレーン・フォークリフト等の荷役機材の手配を行う
③資材の手配:船倉内で貨物の固縛(ラッシング)に必要となるベルトや木材(ダンネージ)といった資材の手配
④トラック・トレーラー・艀での貨物受渡スケジュールの調整・立案
⑤作業時間をおおよそ検討し、予定日数より日数が伸びる想定の場合は、船会社へのスケジュール変更・調整の交渉
担当する作業員の誰が見ても一目で分かるような積載プランの立案はもちろんのこと、危険品の隔離規定やフラット貨物の積み位置なども考慮してプランを作成し荷役作業日当日を迎えます。
事前のシミュレーションで臨機応変に対処
作業が始まる前には、船内作業員、固縛作業員、検数作業員、Chief Officer(本船乗組員/一等航海士)、資材納入業者と荷役に関わるすべての人たちと注意点や連絡事項を共有し、荷役作業終了まで立ち会います。
作業当日は船上と岸壁を何度も往復し、貨物に異常はないか作業に不備はないかを目視で確認し、ときに携帯電話などで作業責任者らと確認を行いながら作業を進めます。
「最初の一つの積載が肝で、これが少しでもズレてしまうと次に続く貨物がズレて最後は収まらない」ということに繋がるため、最初の貨物を船倉に積載する際は、必ずその場に立ち会い、貨物のズレがないことをフォアマン自ら確認します。
また「作業が始まるときには、頭の中で作業は完了している」というほど、ありとあらゆるシミュレーションを行い、積載される貨物の位置や作業工程というのは頭に入れて当日の作業にあたります。何度も頭の中でシミュレーションを行った上で、作業日当日を迎えているからこそ、トラブルに対しても柔軟な対応や判断ができるとフォアマンの月野さんはいいます。
荷役作業を始めてみると、想定通りに行くことはまずないと言うほど、現場では様々な問題が起きます。
例えば、他港で船倉内に積載された貨物がストウェージプラン通りではないケースや、本船に装備されたクレーンの不調、貨物の搬入スケジュールの遅れ等、「何も起こらないことはない」と言うほどだそうです。
今回取材させていただいた月野さんは、幾度の失敗を糧にそこから多くを学んでいったのこと。問題発生の都度、何がいけなかったのか自問自答を繰り返し、トラブルに対しても柔軟な対処ができるようになったと言います。「全てを頭に入れつつ2手3手先を見ながら仕事をしている」という考え方、それが全体への気配りや危険予知ができる理由の一つではないでしょうか。
物量が多ければ夜間作業も行い、昼夜続いてしまうこともありますが、「自分がいなければ本船荷役が動かないという使命感の下、取り組める仕事」という姿勢で臨み、自分が想定したプランの通りにピタリと収める。それがモチベーションに繋がります。
取材当日も岸壁と本船上を何度も慌ただしく往復していた月野さん。その判断と気配りが在来船の安全荷役と定期運行を支えるキーパーソン、それがフォアマンです。